自動車整備士として10年働いた頃に、椎間板ヘルニアになった時の話です。
整備士の仕事はなかなかに過酷で、50kgはある重いものを一人で持ち上げたり、長時間中腰で作業しなければならないことも多々あります。普段から腰痛には悩まされていましたが、家で湿布を貼るくらいのことしかしていませんでした。
そして、ちょうど30歳になる頃に椎間板ヘルニアになりました。そのときは仕事中でしたが、あまりの激痛に耐えることができず、途中抜けさせてもらい病院へいきました。レントゲンを撮ると、ヘルニアになっているということで腰に注射を打ってもらい、その日はなんとか仕事に戻りました。
翌日はたまたま休みだったので、日帰りで手術をしてもらえるところを探しましたが、予約なしの飛び込みで手術してくれるところなどなく地元の有名な病院へ行きました。すると症状と年齢的に考えて、手術はおすすめしない、安静にしましょうとのことでした。
こんなにも痛みがあるのに耐えるしか方法がないのかと信じられませんでしたが、「一度手術をすると癒着する可能性があって、次は手術ができないかもしれない」というリスクの話を聞くと待機療法が良く思えました。一度ヘルニアになると、数年後に再発することがあるとも聞いたので、日頃から腰痛持ちの自分は、またヘルニアになる可能性が高く思えたからです。
待機療法といっても仕事を休むとは言い出せず、コルセットをきつく巻いて出勤しました。辛そうに仕事をしていると、周りからは「大袈裟だ」とか「仕事を辞めたいのか?」など言われ、普段ならただの悪ノリで済ませられるところが、そんな余裕もなく周りとの空気が険悪になりました。一週間は頑張って仕事に行きましたが、当然いつものように動けないので、社長からは怪我をされても困ると言われ、療養のための休みを取ることになりました。
休みが取れたことには正直助かった思いでしたが、働かないことにはお金の心配があるので、早く治す必要がありました。病院で相談すると、ブロック注射は単なる痛み止ではなく、症状を緩和する効果もあるということで打ってもらいました。打ってすぐは痛みが鈍くなりましたが、次の日にはまた痛みが出て来るので、本当に効果があるのか不安でしたがこれに頼るしかありませんでした。
一週間休んだ頃に職場から連絡があり、まだ善くならないことから一ヶ月休みをもらうことになりました。信頼できる後輩に職場の話を聞くと、冗談混じりにどうせサボりだとか、このまま辞める方に賭けるなど、激痛に耐えている人の気も知らないでそのような話をしていたようです。
ヘルニアで仕事まで休むのは自分だけなのか?みんなはこの痛みに耐えて仕事をしているのか?大袈裟に痛がり過ぎなのか?
よくわからなくなってしまい、精神的にもどんどん衰弱していったように思います。病院の先生にも話を聞いてもらい、「ヘルニアはなった人でないと理解してもらいにくい。」ということで辛い思いをする人は多いようです。
なかには、上司にヘルニアになった人がいても、その上司が軽度のヘルニアだった場合、「自分は仕事を休まなかった。」などの圧力をかけて精神的に押し潰される人もいるようです。重度のヘルニアと軽度のヘルニアには大きな差があるので、ひとまとめにできない難しい病気だと言われ、自分の他にも苦しんでいる人がいるんだとわかると、少し心が落ち着きました。
それからは、家で安静にしている間は、ネットでヘルニアで苦しんでいる人の話を読みました。自分だけでないとわかると安心できたからです。出てきた話の中で、多くの人が転職を考えていましたが、実際のところ自分も転職が頭をよぎっていました。
ヘルニアになるまでは、整備士を辞めようと思ったことは一度もなかったです。憧れの職業でしたし、趣味の延長だったので天職だと思っていました。しかし、一度ヘルニアの辛さを体験してしまうと、再発の恐怖もあり、もっと安全な仕事に就きたいと思うのも事実です。休みの間、他に自分にできる仕事は何か調べ続けました。そうすると、これ以上年齢を重ねてからの転職は難しいという話を読み、30歳の今、ヘルニアになったのは最後のチャンスのように思え、本格的に転職について考え始めました。
そうこうしているうちに一ヶ月が経ち、社長と今後どうするかという話になり、退職することにしました。自分で工具を買い揃えたりもしていたので、正直なところ自動車整備士に未練はありましたが、腰に負担がかかるこの仕事を続けることは将来的に不安があったので転職の決断をしました。
よくよく調べてみると、一年半の間、傷病手当てというものが貰えるようなので、まずは身体をしっかりと治すことに専念しました。その時間を利用して、転職に有利な資格を取ろうと考えました。数字には強い方だったので、簿記と、仕事でもよく使っていて自信があったのでPC検定を取ろうと通信講座を申し込みました。
ヘルニア発症から8ヶ月療養し、なんとか仕事ができそうなくらい回復したので、本格的に転職に向けて動き始めました。職安で色々話を聞き、腰に不安があることの相談をして長く働けそうな仕事を探しました。資格はPC検定2級を取ったのですが、職員の方にも資格があるだけで大きなアピールポイントになると言われ、療養中に勉強をしていて本当によかったです。これがあるだけで選択の幅が広がりました。
そのあとは何社かの面接を受け、いくつか内定を貰えるなど順調な転職活動でした。そして現在は、今後需要がなくなる心配が無さそうだったので、介護用品の営業として働いています。給料も上がり、あのタイミングで転職をして本当によかった思いました。
話に出てきた後輩は、自分が辞めてしばらくしてからヘルニアになってしまったようで、よく相談に乗っていましたが整備士を続けるようでした。人それぞれなので自分の判断を押し付けはしませんが、後悔だけはして欲しくないですね。
当サイトからあなたへ
「ヘルニアは周囲からは理解されにくい・・・」
確かにそうですね。私の時もそうでした。周りからのからかいの言葉も、冗談だとは分かっていても腹が立ちますよね。
天職と感じていた仕事からの転職には、とても悩んだことでしょう。しかし私の考えとしては、若いうちは無理にひとつの仕事にしがみつく必要はなく、その会社で定年まで安心して働くことができるかが重要です。
会社が傾くなどの要因もありますがそれは別として、まずは身体を痛めたあなたが仕事を続けられるかが肝心です。役職につけば仕事内容も変わるので判断に迷いますが、今の会社で40代、50代も安心して働けますか?
まだ若いうちなら転職先の選択肢も多いですが、年を重ねるにつれその選択肢は大きく減っていきます。
悩んでいるのなら、転職するかしないかは後で考えて、どのような転職先があるか調べてみるだけでもいいと思います。今とは別の可能性が見えてきますよ!
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